土銀ワンライ『 土砂降り 』
どしゃ降りというほどでもなく風も吹いていないけれど、濡れるのもつまらないので野暮用に傘をさして出ると、帰り道に軒下でタバコを吸いながら雨宿りする恋人に出くわした。
「何してんの」
「おぅ、見廻り終わりに降られてな」
「じゃ、もう帰んの」
煙を吐き出しながら恋人は頷く。黒く艶めいた髪に雨の粒が乗っていた。最後に会ったのは確か、2週間前の夜だった。夜更けに目を覚ますと、宿にひとり残されていたのだ。
息を詰めた気配がして見ると、恋人は目を瞬かせている。開くと白目がウサギのように赤い。
「どしたの」
「煙が目に入った」
うう、と小さく声をあげて、ほちほちと瞬くとやはり涙目なのである。眉を下げ、たすけてくれ、とでも言いたげにこちらを見たりして。なんと愛くるしい顔をするのだろう。ただでさえ周囲がほっとかないイケメン様なのだ。いくら雨に隠れていたとて、そんな顔を晒してもらっては恋人として両手で覆って隠して懐に仕舞い込みたくなる。
銀時は口をあけてみとれた。
「湿気があるだろ。風もないと煙が散らずに顔にまとわりつくんだ」
「土方くんこれから空いてんの」
銀時は、もの欲しくなった。
夜の床の中で、彼は熱中するとこれと同じ顔をするのだ。目尻に涙をためて熱く見つめ、もう何も出ないと許しを乞う銀時を揺さぶって、空っぽの銀時をむりやり高みへと連れてゆき、果てさせる。その時の顔だ。狼藉を働いているのは自分のくせに、ひどく物憂げに、眉を下げ、銀時を犯しながら視線は外させない。つい、それを思い出してうずいた。単純に、したくなったのだ。
「…あ?」
たまには俺が持ち帰ったっていいだろう。いつもは自分が暇人だからといって、有無も言わさず屋根のあるところへ連れ込まれるのだ。
すぐに人を不能とか不感症のように揶揄うくせのある恋人に、いつかわからせたいと思っていたのだ。俺だって、欲情することくらいある。