土銀SS 『 交点 』

2018年07月06日

 坂田銀時の目を見ると、俺の心中は途端騒々しくなる。

彼が男子生徒でありながら俺に恋心を持ち、それを包み隠さず示してくる(ぶつけてくるといってもいい)という事を抜きにしても、そもそも入学した時から、あれの目を見るのは苦手だった。射竦められてしまうだなんて言うと大人として教師として情けない話だけれど、それはどうも怖いだとかいうことではなくて、なんというか、途方もない気持ちになるせいで。

 俺から何かを引き出そうとか、何かを求めて見つめてくる圧力のようなものはそこにはなく、途方もなく侘びしくなる。見透かされている、と思わされるほど坂田銀時は聡明な子供ではなかったが、ただ何か言いたげに俺の顔を見てくるのだ。

 ふざける時は涙袋をふっくらふくらませて少年らしく笑うのに、その顔ならば俺だって嫌いじゃない、と思える程度に可愛げがあるのに、ふと黙ったかと思えば、その目だ。彼は俺に、「先生、好きだよ」「つきあってよ」「ねえ」としつこく言い含めてきたけれど、本当はもっと他に言いたいことがあるのではないかとすら思うようになった。それほど、彼の視線は、俺の心を騒がせたのだ。出会った時から。彼の名を俺が、俺の名を彼が知らなかったはずの、入学式の日からずっと。

 だが彼は単なる公立高校の一生徒で、俺はそれを三年間だけ見守った一教師でしかない。卒業と同時に、開放されると思ってた。

「先生、まだ気づかないの?」

 坂田銀時は、卒業生として体育館を退場した直後、まっすぐに俺の元へ詰め寄ってきた。式典に合わせたフォーマルスーツ。黒スーツに白ネクタイ。無遠慮に、その俺のネクタイに触れると一気に引っ張り上げたのだ。まるで首輪を引かれた犬のように、俺は前につんのめって坂田の懐に落ちた。よもや卒業式に生徒が暴力行為に及ぶのかと、周りが一斉に腰を浮かせたとき、彼は言ったのだ。

「先生はね、昔、犬って呼ばれてたんだよ」

「何?」

「やっと会えたんだ。このままで済むわけない。逃がすわけがないよ」

 意味不明なことばかり言われているのに、俺は彼の懐にしまわれながら、どこかで安堵していた。やっとこの謎が解ける、と。やっと坂田銀時の、本当の気持ちが聞ける。

「どんなに時間をかけてでも、思い出させてやるよ」



戻る

(c)2018 shimura.
此方は二次創作サイトです。作者様、編集社様などの公式とは一切関係ありません。
Powered by Webnode
無料でホームページを作成しよう! このサイトはWebnodeで作成されました。 あなたも無料で自分で作成してみませんか? さあ、はじめよう