土銀SS 『 出会い 』

2018年07月06日

 バイト先の居酒屋で、白髪頭の客と話すようになった。ちっともおかしくなさそうに笑うのが妙で、同時に色っぽくもあった。まだ10代の俺にはてんでわからないながらも、男の色気などというものは果たしてどのように備わるのかと、彼を見る度に少し知りたくもなった。

「高校生でしょ」

 ある夜、ナンパのように聞かれてつい学校名を答えた。他の客なら教えなかったが、なぜかするりと口から出てしまったのだ。わざわざ学校にチクるとは思えなかったし、なんでもいいから俺のことを知ってほしいという気持ちが、すでにその頃は芽生えていたのかもしれなかった。

 すると「俺そこ、行ってたわ」などと言うのだ。「卒業生なんすか」とっさに聞けば、彼は首を振って「いや、元教師」。続けて「生徒に手出してクビんなったの」と含み笑いした。

 彼の名前より先にそんな後ろ暗い事情を知ってしまった。だが納得のいくものだった。この男なら、そんなところだろうと思ってしまった。然もありなん、と思ってしまった。

 笑いも引きもしない俺を見て、彼は「おなじの、もう一杯」と、グラスをかかげて俺にだけ聞こえる声でささやいた。


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