友人Z
先日、ツイッターで知り合った文字書きの方々と小説勉強会なるものをした。オンライン上で互いの短編小説を公開し、そこに遠慮なく赤ペンを入れてもらうというもの。中にはジャンルの違う作品もあったし、はじめましての方だっていた。だけれどそんな事は関係なく、とても楽しかったし勉強になったし、自分が常日頃「他の方はどうしているんだろう」「私だけなのかこんな苦悩は」などと不安に思っていたことも意見交換ができ、本当に有意義な時間だったと思うー…。
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Zという友達がいる。
Zは、私以上にヲタであり腐女子である。アニメはほぼ網羅しているし、私と違って一度に何作品も広くハマれるタイプ。何を聞いても返ってくるし、LINEではしょっちゅう誰かのツイートや支部作品がシェアされてくる。刀剣乱舞にハマった直後は通知音が鳴り止まなかった(マジな話)。そしてどうやら、Zはひどい活字中毒である。一度だけ入ったことのある彼女の部屋は本で埋めつくされており、地震がきたら大変だな…という感想をまず抱いた。貸してくれる本はいつも一体どこから見つけてくるのか作家ジャンル共に様々。育児書から文学作品、なんだかよくわからないお茶の歴史本、漫画はもちろん知らない人のエッセイも(貸してくれた理由は「あんたに似てるから」)。次から次へと、読むのも返すのも追いつかず、返しても「貸したっけ」とか言われる。借りてたバナナフィッシュなんて、全然読まないまま「読みたいから返せ」と言われた。読むのが遅くてごめん…。
Zとは演劇部時代に知り合った。1つ年上の先輩だ。当時から私が彼女に抱いていた印象は、とにかくその柔軟性だった。縦社会でかなり体育会系だった我が演劇部では、部長に選ばれる部員は”中立の立場に立てる冷静かつ柔軟な人間性であるべし”とされており、Zは私が入部した時すでに部長だった。尊敬というよりは、羨ましかった。誰にでも分け隔てなく接し、上にも下にも好かれ、時にはくじけた後輩のフォローをし、時には揉め事のさなかに自らピエロとなって切り込む彼女の柔軟性は当然、私の窮地を何度も救ってくれたし、何より演技にも表れていた。部内でもナンバーワンキャストだったと私は思っている(高校演劇にランクなんかないけど)。
そんなZと今もつきあいが続いているのは、私がヲタになったタイミングで、たまたまZの家の近くに引っ越したことで、よく遊ぶようになったからだ。それはいわば、私がZという沼に飛び込んだタイミングでもあった。彼女は私と知り合うよりもずっと昔から、生粋のヲタクだったのだ。そりゃLINEも鳴り止まないはずだ。知識の量が違う。沼の深さが違う。私が「最近銀魂アツイんすよね…」とか言い出した頃には、彼女はすでにあらゆる沼を網羅してドロッドロになって腐った汁をバケツごと啜って「あ?今なんか言ったか?」みたいな状態だったから。
大人になって急にヲタ及び腐女子になってしまった私には、当然ヲタ友達なんていなかったので、培った知識・溢れ出る情熱・拗れたヲタ心はすべてZにぶつけた。これはとてもありがたいことだった。わかり合える人間がいる。そしてそれが旧知の仲であり、知識もあり、腐り方も大概におってくるほど。一緒に映画も見てくれる、アニ○イトにもまんだ○けにも行ってくれる。選ぶものにセンスもあるから刺激になる。絵を描いていると言っても「マジか、ペンタブ触らせてよ」だし、コミケ行くと言っても「ハイキューの本買ってきて」だし、「同人誌作ってる」と言っても別段驚きゃしなかった。ありがたい。もう私は彼女無しでは生きられないのではないかと思っている。割とマジで。
だが何をしても許されるというわけじゃないのが、人間関係というもの。モメたこともあった。銀魂本誌がかなり佳境の頃、Zが早バレをかましてきたのである。いつもの如くLINEで、例の二年後新八くんの画像を日曜夜に送ってきたのだ!(これゾッとする話です) 私は怒った。多分、ツイッター上でそれをされたら皆さんファック!だと思うのだが、その勢いで怒ってしまった。Zは謝ってくれたけれど、軽率だと私はなじった。いや、相手は銀魂クラスタでもないんだからキレ過ぎだろと思うかもしれないが、私はZだからこそこの気持をわかってくれると思っていたのだ。甘えていた。そもそもZは一つの作品に深く深くハマってゆくタイプではなかった。我を忘れるほど夢中になるとか、絶対の推しがいるとか、だからこそ地雷への拒否反応もすごいとか、そういうものは全くない。ヲタでも”柔軟”な女だったのである。だからこそ、私がそこまで過敏になっているとは思わなかった。なったことがないのだから、わからないのも当然だろう。謝っているのに怒る私に、Zは「価値観がちがう」と言った。私は我に返って、謝った。恥ずかしいことをしたと思った。確かに推しは大事だし、銀魂は私の魂の真ん中にある。だが、だからといって言っていいことと悪いことはあるし、推し方を完全に間違えていた。彼女への甘えであったし、普通の人なら「知らんがな」「お前怖いわ」となるところを謝らせたりして、私は害悪を振りまいてしまったと気付いた。そして、それに気付けたのは、このままZと縁が切れたら嫌だ、と思えたからだった。
いい大人がどんな理由で友達に喧嘩売ってんだよと思われるだろうが、実話である。そしてZはバカな私に「いや、こっちこそごめん。恥ずかしいからしばらく会えない」と言い、その一ヶ月後、「梅見に行かない?」とLINEをくれたのだった。一年前のことだ。今年もまた梅、見に行こうと思う。
そんなZに、先日件の小説勉強会の話をした。本の虫であるZは文字を"読む"ではなく"書く"ことに大いに興味を示した。そしてある日、例の如くLINEで一枚の画像を送ってきた。それは小説メーカーで作った超短編らしき文章。一緒に送られてきたメッセージは「楽しい…」
聞けば、「小説勉強会の話聞いてたら書いてみたくなって」とのこと。ジャンルは彼女の好きなバナナフィッシュ。あえて固有名詞を伏せることで詩的な情緒を漂わせる、短いけれども趣のあるワンシーン。初めて書いたのかよ!?とつっこみたくなるぐらい洗練された文章に、思わず嫉妬したほどだ。
だけど、私は嬉しかった。ものすごく嬉しかった。ずっと与えてもらうばかりで、私がぶつけるばかりだったZ先輩が、私の話を切欠に興味を広げ、その上何かを生み出しただと?そんな嬉しいことってあるのか。
もっと読みたいと思った。Zの世界観を文章で読めるなんて。もっと書いてください!ととにかく私はメッセージを返した。飽きずに書き続けてもらいたい。あ、だけれどバナナフィッシュ、私読んでないから、Zの小説の世界観を理解するためにZにまた借りなきゃいけないな。と思いながら。