土銀SS『 春 』

2018年07月06日

 片足を入れかけて、俺はそれに気づいた。

真っ白なバスタブに保護された色で、見落としてもおかしくはなかったが。水に溶けそうな薄紅色。桜の花びらが一枚、浮いていたのだ。ひょいと人差し指で救ってバスタブの縁に置く。先に入ったあの男が落としたのだろう。真っ裸で入る場所にこんなものを持ち込めるのは、あの癖毛しかない。

「全く、性懲りもなく」

 不平とも惚気ともとれる独り言。春だの俺だの、どこからでも無自覚にいろんなものをひっかけてくる奴だ。


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